ブックタイトルちびっこぷれす Chibikko press 2016年10月号 NO.209
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ちびっこぷれす Chibikko press 2016年10月号 NO.209
4 それは7月9日のことだった。男子たちにカブト虫が流行っていて、数名がカゴで持ってきていた。すると昼食時、年長男児たちがこう言い始めた。「オレたち(カブト虫の)映画やる」。中島「いつやるの?」。男子「弁当の時」。彼らは子どもたちが園庭で弁当を食べる時にカブト虫を戦わせる映画をしてくれた。しかしカブト虫なので小さくて見えにくい。観ている子どもたちはだんだん飽きてきて話し始めた。すると映画スタッフがカンカンに怒ったのだ。「みんなが観なかったから嫌な気持ちがした!」と。こんな時には理由を聞くことにしている。中島「映画はなんでやってあげたのかな」。子「みんながご飯中につまらなそうだったから」。「やりたくないのにご飯も食べないでやってあげた」とのことだった。私はびっくりして「え、やりたくないのにやったの?」と聞き返した。「うん、だから観てほしかった」。 こんな場面に遭遇した時、大人はどうされますか。私はもう少し掘り下げてみたくなったので、さらに観客側の事情も聞いてみた。「観ていた人はいつもお弁当の時つまらなかったのかな」。すると観客たちは口を揃えて「楽しく食べていた」と言った。こうやってだんだん事情がわかってくる。上映スタッフはみんなのために映画をやってあげたかった。人が喜ぶことをしてあげたいという気持ちはとても大切なことだと思う。いい子に育っていると思った。ただ今回の場合、観客は昼食中つまらないと感じていない。なので、そのやってあげたいという気持ちが一方通行だったのかもしれない。私は観客の事情を映画スタッフに説明した。「(みんなは)映画観なくても楽しかったみたいだよ」。すると観客だった年長男児あー君がこう言った。「せっかくやってくれたのにそんなこと言っちゃだめだよ」と。例え必要でなくても、せっかくやってくれた気持ちを最優先すべきだということだ。人の善意を無にしていない。さらに私には、映画スタッフの意見が観客の言動や気持ちまでもを強制しているように見えた。中島「じゃあ、楽しく食べているのにつまらないなーと思わないとダメっていうことかしら」。年長男児こはく君は「それは違うけど」と言った。人の気持ちを強制するのは違うと言ったのだ。幼児でも話の内容は深いので集中力も必要だ。しかし依然として映画スタッフ側コラム/中島久美子 写真/砺波周平 デザイン/若岡伸也機を待つ第 4 3 回