ブックタイトルちびっこぷれす Chibikko press 2016年9月号 NO.208

ページ
4/48

このページは ちびっこぷれす Chibikko press 2016年9月号 NO.208 の電子ブックに掲載されている4ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

ちびっこぷれす Chibikko press 2016年9月号 NO.208

4 森のようちえんピッコロは7月中旬から夏休みに入った。1学期に年少児りょう君と栗の木の下で話していた。その時彼が「先生、お餅があるね」と、下を見て言った。地面にはたくさんの栗の花が落ちていた。毛虫のように長細い。「んん~、これがお餅か~」と、私は思った。すると彼は「先生お餅好き?」と聞く。「うん」と言うと、「じゃあ、今度買ってきてあげる」。「ありがとう」。と、どんどん餅話は進むのだ。けれど私はどうもひっかかる。りょう君は長細いお餅を食べたことがあるのかな、でも…。と思い、ここまで話しておいて今更失礼だと思ったが、一応聞いてみた。「あのさ、お餅ってどれだっけ」。「これ」。彼は木漏れ日を指さした。ガーン、木漏れ日を見ていたのか!! 確かに丸くて餅みたい。51歳の私には、もう木漏れ日なんて見えないのよ。泣くかと思った。 私はこの10年間、子どもがどの景色を見ているのかを知りたくて森のようちえんピッコロで保育をしてきた。そして子どもを徹底的に理解しようとした。その結果、ほんの少しの可能性もなく、当たり前だがもう彼らが見ている景色は見られないということがわかった。カミーノ巡礼に行ったって、何したって少しも子どもに近づけない。私が子どもが見ている景色を見たいのは仕事だからではない。どうしてもそこに正しさみたいなものがあると思ってしまうからだ。もしかして大人になるということは、かつて自分もいた場所に戻れなくなるということなのかもしれない。そして私は自分を否定しているわけでもない。イケテナイ私も生きていていい。ただ子どもは嫌になるくらい大人(私)よりずっとすごいのだ。 今年もこの原稿をスペインで書いている。夏にカミーノに通い続けて4年目になる。カミーノでは歩き始めに巡礼事務所に行く。そこでコースが二手にわかれているという地図をくれた。「左は危険なので右に行きましょう」というインフォメーションだった。私は翌日、その地点に到着した。その日は雨天の峠越えで、私に余裕がなかった。しかも前回は危険な道と言われている左の道を私は歩いている。だからインフォメーションのことはすっかり忘れていた。周りの大人が分岐付近で右往左往していたので思い出した。分岐は地図も標識もわかりづらかった。コラム/中島久美子 写真/砺波周平 デザイン/若岡伸也子どもが見ている景色第  回42