ブックタイトルちびっこぷれす Chibikko press 2015年9月号 NO.196

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概要

ちびっこぷれす Chibikko press 2015年9月号 NO.196

4夏休みにスペインカミーノ巡礼に一人で通い続けて3年目。784kmを一昨日歩き終えた。ピッコロの子どもたちと一緒にいたら、夏休みに優雅にバカンスという気分にはとてもなれない。なんとなくおいていかれるような気がするからだ。今回の旅でも色々あった。貧乏旅はした方がいいと思う。 早朝誰もいない道、3頭の牛が私の前にいた。2頭が右側、1頭が左側。真ん中があいているので追い越すことができる。ただ道が狭い。こんな所で人間が付き添わず牛だけで歩いているのだから、危害を加える牛ではないだろう。それはわかる。ただなんとなく怖い。アラスカ病の夫に連れられ、私も数回アラスカに出かけている。熊には食べられる心配が、ムースという大きな鹿には踏み殺される心配がある。牛にも踏まれそうで怖いのだ。《ピッコロ中島、牛に踏み殺される》そんな文字が頭をかすめた(笑)。牛がゆっくり歩く。私もゆっくり歩く。牛が止まると、私もどうしても止まってしまう。いつまでこのペースで行くのだろうと考えあぐねていると、後ろから杖を2本使った人がゆっくり歩いてくる音が聞こえた。サクサクサク。振り向かなくても音でわかる。あ~よかった。あの人と一緒なら、なんとなく行けるかもしれない。もし踏み殺されてもあの人が通報してくれるだろう。人がいない道に一人でも誰かがいてくれるということは、こんなにも心強いことだったのだ。だんだん足音が大きくなってきた。その人が私を左側から追い越そうとしたその時に、「なんとなく怖くないですか」と私は話しかけようとして左を見た。すると驚くことにそれも牛だったのだ! 腰が抜けそうにびっくりした。ゲ。あっけにとられていると牛はゆっくりと私を追い越し、私の目には牛の乳が見えてきた。あ、この牛お母さんなんだ。するとその乳につられて、動けなかった足が自然に動き出したのだ。ただ吸い寄せられるように歩いた。何歩か歩いた後、前を向いていたお母さん牛が突然止まったのだ。そして私をジッと見た。わ!何! しかしその目は優しかった。そして彼女は私に言った。「ね、大丈夫でしょ」。私はうなずき返コラム/中島久美子 写真/砺波周平 デザイン/若岡伸也牛に助けられた話第  回30